切れ味の秘密は、700年の伝統を誇る刀鍛冶の技
生産者の盛高さんの刀鍛冶としての系譜は、なんと鎌倉時代までさかのぼります。 初代の金剛兵衛源盛高さんは、鎌倉時代の永仁の頃(1293年頃)、筑前(福岡県)にいて、太宰府、宝満山の僧門で修験道者の刀を鍛えていました。 この刀匠の系譜は筑前で十三代を数え、江戸時代の寛永の頃(1632年頃)、肥後(熊本県)の大名、細川三斎公に従い、現在の八代市の妙見宮の修験道者の刀鍛冶として、この地でさらに十三代を重ねます。 現在の「刀匠 金剛兵衛源盛高」である盛高経猛さんは、26代目にあたり、鎌倉時代からの700年の伝統を今に受け継いでいます。写真は、刀鍛冶をつとめてきた現在の八代市の妙見宮です。 盛高さんは、七百年間、代々続いてきた刀鍛冶の技術と、熟練の技を背景に、出来合いの複合材は一切使用せず、「鋼の割り込み鍛接」という工法を用いて、大量生産の包丁にはない、驚くべき鋭い切れ味を可能にしています。  本当によく切れる!日本刀の工法で作られる職人技の包丁
地鉄にハガネを鍛接し、何度も強く打ち、金属組織をより強靭に変化させながら、それぞれの包丁に最も適した大きさに鍛造する火造り鍛造を経て、職人の手作業で最適の熱処理を施され、鋼の持つ最高の切れ味が引き出されます。 これらの工程には、炉の温度や刃物が、最適になる状態を一瞬で「目利き」し、その瞬間を逃さない、高度な職人技が必要です。 特に、最高級の鋼である青紙スーパーは、非常にデリケートで、ちょっと温度を上げすぎるとたちまちボロボロに崩れてしまうため、自家鍛接を行える職人は全国的にもほとんどいないという職人泣かせの鋼です。その鋼と地鉄の鍛接は非常に難しく困難な作業ですが、盛高さんは、最高の切れ味・品質を求めるために、あえて出来合いの材料を使用せず、青紙スーパーの性能を最大限引き出すために自家鍛接で包丁を一本一本作り上げています。 「利器材と呼ばれる出来合いの複合材を使用すれば、製造量を現在の数倍に上げることは可能でしょうが、切れ味・品質には満足出来ないんですね。最高の切れ味・品質を求めるために、あえて利器材を使用せず、青紙スーパーの性能を最大限引き出すべく 自家鍛接にこだわっています。このこだわりは、刀鍛冶としての700年の伝統と技を受け継ぐ意地でもあります。」(盛高さん)  盛高刃物が出来るまで。
(1)原材料の準備、鍛造 刃物用炭素鋼である「青紙2号」または「青紙スーパー」を、何度も強く打ち、金属組織をより強靭に変化させながら、薄刃包丁、出刃包丁、各種刃物それぞれに最も適した大きさに「鍛造」します。 鋼を割り込む地鉄には、刃物用軟鉄(炭素量の低い鉄)を使用します。それぞれの刃物の用途に合わせて、極軟材・中硬材・硬材を使い分けます。 (2)沸し(地鉄割り込み、ハガネ挟み込み) 地鉄を割り込み、ハガネを挟み込んで接合材(ホウ酸等)をふりかけて、900℃前後のハガネと地鉄が接合するギリギリの温度まで加熱して「鍛接」し、「地鉄」+「ハガネ」+「地鉄」の三枚構造にします。 この後、ハンマーで打って細長くしていくことで、それぞれの材料が硬く接合されます。 また、ハガネも薄刃包丁、出刃包丁、各種刃物に最も適した割合を割り込み「鍛接」しています。 (3)材料の切り出し 「三枚構造に鍛接」した材料を細長い板状に伸ばします。それを炉で少し赤め、柔らかくなったところを「タガネ」と「ハンマー」を使って包丁1丁分に必要な大きさに切り出します。 (2)〜(3)の工程は、利器材(出来合いの複合材)を使用している場合にはない工程で、盛高さんの刃物の切れ味を最高たらしめている工程です。 (4)火造り鍛造(刀身造り、柄入れ部分造り) 「鍛冶屋」といえば多くの人がまずイメージする「火造り鍛造」の工程です。 地鉄にハガネを鍛接し、それぞれの刃物用に切り出した材料を、3〜4回加熱、鍛造を繰り返して、脱炭(ハガネから炭素が抜け本来の力がなくなる)しないように、素早くハンマーで刃物の形にして行きます。 2丁同時が一般的ですが、盛高刃物では3丁を同時に「火造り鍛造」します。 「ハンマーひとつで、赤められた鉄の塊が、見る見るうちに包丁の形になっていく様子は、不思議で魅力的だと言われますが、実際にやっている側は本当に暑くて、特に夏は外に出ると涼しく感じるほどです(笑)」(盛高さん) そして、材料の端の方を縦、平と交互に打って細長く伸ばして柄入れ部分を造ります。 柄入れ部分と反対側の刀身の部分を必要な大きさまで打ち伸ばします。 刀身の方を持ち手打により柄いれ部分を丁寧に仕上げます。 刀身の部分を中心を軽く打ってならし、大まかにゆがみを取ります。 (5)焼きなまし、形とり、刻印入れ 「火造り鍛造」時に加わった力による組織のムラを均一化して、正常な状態に整えるために「焼きなまし」を行います。 刃物を760〜800℃まで赤め、「ワラ灰」の中に入れ一昼夜かけてゆっくりと除冷します。 「焼きなまし」を行うことにより、この後の「形とり」「整形」等の工程を、ハガネに無理な力を加えずに行えます。 まだ余分な部分の残っている包丁の上に「型板」を乗せ、「けがき棒」と呼ばれる道具で包丁の形をけがきます。 「ハンドシャー」と呼ばれる道具で、けがいた線に沿って包丁を裁ち切ります。 そして、包丁に「源盛高」等の刻印を打ちこみます。 (6)ならし、整形、焼戻し 「形とり」と「刻印入れ」によりゆがんだ包丁を、手打で軽く全体をならし、細かいゆがみを取ります。 「ハンドシャー」だけでは取りきれなかった細かい線の仕上げや、バリ取りのために、グラインダーを使い形状整形します。 さらに、「水グラインダー」と呼ばれる大きな湿式の回転砥石を使い表面を磨きます。 盛高さんは、包丁の用途に合わせて、泥塗りしての「水焼き」及び、「油焼き」の2つの方法で焼入れを行います。 790〜830℃の最適の温度までゆっくりと均等加熱した包丁を「水」または「油」に素早く入れ急速に冷却します。このとき鋼の組織が引き締まり、非常に硬度の高い(硬い)構造になります。 「焼入れ」の温度管理は、赤まっている包丁の色具合で行われるため、長年の経験と感が必要になります。 「焼入れ」は、わずかでもタイミングを損なうと失敗に終わり、鉄クズになってしまうため、まさに「真剣勝負」といえます。 「焼入れ」したままの状態では、ハガネは非常に硬いのですが、同時にもろくなってしまっていて、刃こぼれしやすくなっています。 刃に粘りを持たせるために、160〜230℃、30〜60分の間で薄刃包丁、出刃包丁、各種刃物それぞれの最適な時間と温度で、再び熱を加えて戻します。 (7)ひずみ取り、平面取り、荒研ぎ(ハガネ出し) 金属は、熱を加えたり冷やしたりすると「膨張」や「収縮」をします。 「焼入れ」や「焼戻し」などの熱処理を行うと、包丁にひずみが出るため、それを常温のままひずみ取り用の特殊なハンマーを使い、手打ちで丁寧に修正していきます。 「研ぎ」の工程では、ハガネに熱を加えないように「水グラインダー」と呼ばれる大きな湿式の回転砥石を「荒・中・仕上げ」と使い、研ぎ出して行きます。「目の粗い砥石」で、始めに、研ぎ板に包丁をはさみ大まかにハガネを研ぎ出します。それから手に持って、微妙な手先の調節によりハガネを均一に研ぎ出します。 (8)仕上げ研ぎ、本刃付け、切れ味検査 「中砥石」で、「荒研ぎ」で残った水グラインダーの砥石目を、さらに、「仕上げ砥石」で、「中砥石」で残った水グラインダーの砥石目を落として行きます。 「『荒研ぎ』で残っている水グラインダーの砥石目は非常に荒く、そのままでは気持ちの良い切れ味ではありません。そのため、より目の細かい砥石で、研ぎ出しした部分の表面を仕上げて行くんです。」(盛高さん) さらに、ハガネと地鉄の境目を美しく際立たせるためにバフに砥石の粉末をつけて磨きます。 「仕上げ研ぎ」の状態でも充分切れますが、より良い「最高の切れ味」にするために「本刃付け」を行います。 「非常に目の細かい砥石」を使い、手研ぎで丁寧に行い、シャープな刃を付けます。その後、薄い紙を切るなどして切れ味をチェックします。 (9)柄付け・防錆加工 包丁の柄入れ部分を少し赤め、持ちやすく、使いやすい角度に1丁1丁調整しながら柄を焼き込みます。更に、柄が取れないように接着剤で付けます。汚れを落とし、サビ止めを塗り完成です。  お手入れ方法
使用後は、洗剤で丸洗いし、水気をよく拭きとり、湿気の少ない場所に保管して下さい。 >>盛高の包丁一覧へ
|